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きょうしゅうのしじん よさぶそん
郷愁の詩人 与謝蕪村
萩原 朔太郎
蕪村の俳句について「生理 1」1933(昭和8)年6月、春の部「生理 2」1933(昭和8)年8月、夏の部「生理 3」1933(昭和8)年11月、秋の部「生理 4」1934(昭和9)年5月、冬の部「生理 5」1935(昭和10)年2月、芭蕉私見(前半部分)「コギト 第四十二号」1935(昭和10)年11月、芭蕉私見(後半部分)「俳句研究 第三巻第一号」1936(昭和11)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 页
うぐひすや家内揃ふて飯時分
鶯のあちこちとするや小家がち
鶯の声遠き日も暮れにけり
閣に座して遠き蛙をきく夜哉
これきりに径尽きたり芹の中
うぐひすや家内揃ふて飯時分
春の日の遅い朝飯。食卓には朝の光がさし込み、庭には鶯が鳴いてる。「揃ふて」という言葉によって、一家団欒のむつまじい平和さを思わせる。
鶯のあちこちとするや小家がち
「籬落」という題がつけてある。生垣で囲われた藁屋根の家が、閑雅に散在している郊外村落の昼景である。「あちこちとする」という言葉の中に、鶯のチョコチョコした動作が、巧みに音象されていることを見るべきである。同じ蕪村の句で「鶯の鳴くやあち向こちら向」という句も、同様に言葉の音象で動作を描いてる。
鶯の声遠き日も暮れにけり
春の暮方の物音が、遠くの空から聴えて来るような感じがする。古来日本の詩歌には、鶯を歌ったものが非常に多いが、殆んど皆退屈な凡歌凡句であり、独り蕪村だけが卓越している。
閣に座して遠き蛙をきく夜哉
「閣」というので、相応眺望の広い、見晴しの座敷を思わせる。情感深く、詩味に溢れた名句である。
これきりに径尽きたり芹の中
塵芥に埋れた径。雑草に混って芹が生えているのだろう。晩春の日の弱い日だまりを感じさせるような、或る荒寥とした、心の隅の寂しさを感じさせる句である。