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きょうしゅうのしじん よさぶそん
郷愁の詩人 与謝蕪村
萩原 朔太郎
蕪村の俳句について「生理 1」1933(昭和8)年6月、春の部「生理 2」1933(昭和8)年8月、夏の部「生理 3」1933(昭和8)年11月、秋の部「生理 4」1934(昭和9)年5月、冬の部「生理 5」1935(昭和10)年2月、芭蕉私見(前半部分)「コギト 第四十二号」1935(昭和10)年11月、芭蕉私見(後半部分)「俳句研究 第三巻第一号」1936(昭和11)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 页
麦秋や何におどろく屋根の鶏
更衣野路の人はつかに白し
島崎藤村氏の名詩「千曲川旅情の歌」と、どこか共通した詩情であって、もっと感覚的の要素を多分に持っている。
麦秋や何におどろく屋根の鶏
農家の屋根の上に飛びあがって、けたたましく啼いてる鶏は、何に驚いたのであろう。その屋根の上から、刈入時の田舎の自然が、眺望を越えて遠くひろがっているのである。空には秋のような日が照り渡って、地上には麦が実り、大鎌や小鎌を持った農夫たちが、至るところの畑の中で、戦争のように忙がしく働いている。そして畔道には、麦を積んだ車が通り、後から後からと、列を作って行くのである。――こうした刈入時の田舎の自然と、収穫に忙しい労働の人生とが、屋根の上に飛びあがった一羽の鶏の主観の影に、茫洋として意味深く展開されているのである。
更衣野路の人はつかに白し
春着を脱いで夏の薄物にかえる更衣の頃は、新緑初夏の候であって、ロマンチックな旅情をそそる季節である。そうした初夏の野道に、遠く点々とした行路の人の姿を見るのは、とりわけ心の旅愁を呼びおこして、何かの縹渺たるあこがれを感じさせる。「眺望」というこの句の題が、またよくそうした情愁を表象しており、如何にも詩情に富んだ俳句である。