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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
の御仁がいたら」
「いえもうそのへんのところは、決して御心配はいりませんので、決してもう家柄血統などというだいそれたものは」
「べつにだいそれるとか、それないとか、これはそんなわざとらしい話ではない、おまえさんの先祖はどういう身分の人か、公卿とか武家とか大名とか、それがおちぶれてどうしたとか、二代目はこれこれ三代目はしかじか、なに兵衛の子がかに衛門を生んで、それ吉がかれ蔵の子だという、つまりおまえさんまでの代々の、つまり系図、と云ってわからなければ番付、とはちょっと違うて、が、しかし、……え、そんな物はない、なんにも、まるっきりか」
「ええそのへんはもうきれいさっぱりなんで、どうかひとつお目こぼしのほどを、店賃のほうはすぐお払い申しますんで、どうかここはひとつ」
「呆れたもんだ、呆れてものも云えない」吾助としては、軽侮に耐えないわけだろう、「書画骨董でさえ、箱書とか由緒があるという時勢に、おまえさんそれで人間かえ」
訪問調査の進行につれて、吾助の落胆は日に増大した。御落胤らしき者はおろか、多少これはと首を捻るような者さえいない。否、大多数の店子が、家柄や血筋、先祖とか系図とかいうことにまったく関心がない。