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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

さっきの家臣が報らせてきた。

庭伝いに、数寄屋へ通った客なる人、京浪人と称しているが、まことは七条左馬頭、梅渓右少将、交野左京太夫の三卿で、歴々たる公卿たちである。

一様にしのびの目立たぬ身装、茶室であるから仰山な会釈はなく、短檠の灯もほの揺らがぬ程、もの静かに席へつく。

「お待ちうけ申しておッた」

盤面の石をサラサラと掃いて阿波守が座に直ると尾について、

「ずいぶん遅いお見えでありました」と、居候の竹屋三位卿主人顔して不平をいう。

「例の京町奉行の目が、うるさく見張っておりますために……」右少将がおとなしく言い訳する。

七条左馬頭、改まって、

「阿波侯におかれては、いよいよ明日、卍丸でお国表へお引揚げなさる由、何やら盟主を失うような寂寥を覚えまする」

「されば、そのほうが、策を得たものではないかと存じまして」

「無論、異議なくよろしゅうござりましょう」と、賛同したのは交野卿。語を次いで「宝暦の大変より、早八年の星霜を経ておりますゆえ、幕府そのものには、近頃油断のふうも見えてまいりましたが、かえって、天満組の一部の者や、また江戸方の隠密中に、執念く目をつけている輩がありますとやら」