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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页

青空文庫

「ごめんなさい! ……あれーッ」

乙吉とお三輪が、金切り声をしぼって謝まるのを、お十夜は耳にも貸さないで、

「こいつめ、ヒイヒイいうとぶった斬るぞ。ではなぜ、今も今とて、向うの田楽屋で飲んでいたおれたちの後ろへ廻って、葭簀のかげから人の話をぬすみ聞きしていたのだ。このすれっからしめ、餓鬼だといって油断のならねえ奴だ」

そういえば三人とも、三橋の田楽屋で飲んでいたものか、少し酒気をおびているふうだ。泣き叫ぶお獅子の姉弟を軽々と引っさげて、なおも何か問いつめるつもりなのであろう。

「どけどけ」

と弥次馬を追いちらして、向うの森へ連れ込んで行こうとする。それを見ると無心な群集も、これを単なる路傍のものとばかり、興味に眺めてもおられないとみえて、

「あっ、誰か口をきいてやれよ」

「どうするんだ、お獅子が可哀そうじゃねえか。誰か助けてやらねえか、あれッ、連れて行かれてしまうぞ」

「試し斬りにされるんだ、試し斬りに――」口々に騒ぎたててはいるものの、相手が生やさしい御家人やなんぞと違って、いかにも一癖ありそうなのが、三人までも揃っているので、ただいたずらにわめいてみるにすぎないのである。