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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 页
ついでに、磨きかけていた十手を内ぶところへ逆に差して、
「じゃあ行ってまいります――」
「頼んだぞよ」弦之丞も立って、書き損じの反古をまるめ、炉の中へくべて、ボッと焔にしてしまった。
「一走りでございます」
煙といっしょに、威勢よく、宿院の軒を出た目明しの万吉。大股に急ぎながら、しきりと首をかしげている。
「目安箱へこれを入れる? ……目安箱へ? ……ははア、さてはいよいよ昨日の相談で、常木様と弦之丞様と、そして松平の殿様と、何かの話がまとまったな。それだ! そこでこの御上書だ、ウム違えねえ! とすると、阿波の怪しい様子を将軍様のお耳に入れて、表向きのお沙汰となるか、それともまた、弦之丞様と俺とが、こッそり阿波へ探索に入る段取りとなるか、なんとか目鼻がつくんだろう」
ひとり問いひとり答えて、一月寺の横門から、根岸田圃を斜かいに切ッてゆく万吉。笹の雪から車坂の途中、幾つも駕屋を抜いて、タッタと元気な足を飛ばしていた。
「時節到来。時節到来」
こんなことをつぶやきながら、ニヤニヤ笑って駈けて行った。ドンと誰かに突き当たったが、
「おッと、ごめんよ!」振りかえりもせずにまた駈ける。