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う

鵜

山本 周五郎

「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页

青空文庫

七

でくれというのはあなたの未練よ」

小五郎の持っている刀が、小刻みに鞘鳴りをした。

七

「あなたは気のよわい、卑怯な人よ」とさだは云った、「あなたはわたくしを愛していた、わたくしを愛していたのに、お父さまがわたくしを欲しいというと、お父さまに自分のことが云えないで、わたくしのところへ来て、父の妻になってくれ、などと云った」

「だって、だって」彼はひどく吃った、「それならなぜ、おまえは、断わらなかった、おまえは承知したじゃないか」

「あなたはわたくしをお責めになるの」

「おまえは断わることができた筈だ」

「十六歳の娘のわたくしに」とさだは云った、「百石足らずの作事奉行の娘で、ようやく十六になったばかりのわたくしに、千石の筆頭家老の申し込を断われと仰しゃるんですか」

「しかしいま、いまおまえは、あの男のところへ出てゆこうとしているじゃないか、おまえにそんな勇気があるなら」

「そのおまえというのをよして下さい」さだは殆んど叫んだ、それから云った、「――いまこうする勇気が出たのは、わたくしが十六歳でなく十九歳になったからです」

「あの男のためにと云わないのか」

「あなたのためよ、あの方には関係はありません」