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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

そうだ、それから彼女は近よって来て、両手をひろげながらあまえた声で云ったのだ。

――抱いてちょうだい。

彼はなにもしなかった、できなかったのだ。圧倒され眩惑されていただけでなく、そういう場合にどうすべきかということを知らなかったからだ。みすずは彼よりもはるかに能動的であった。次に起こることを充分にたのしもうとするような、きらきらした眼でみつめながら、自分の欲することをさせようとして彼をみちびいた。もちろんたいしたことではない、少しばかり早熟な、少女らしい好奇心にかられただけのことであろうが、そこでも彼はばかのように狼狽し、ぶきようにしりごみをするばかりだった。

みすずは彼を放し、彼からはなれて、訝しそうな、さぐるような眼つきで彼を見まもった。それから、ぬぎすてた物を順にゆっくりと着ていった。

それだけのことなのだ。みすずは十五歳とちょっとで、自分のからだの美しさを、許婚である彼に誇りたかったのであろう。ほんの僅かだけ、昂奮にかられて好奇心を起こした。それ以上の意味はなかったに相違ないが、半三郎にとっては異常な出来事であり、心の深部に、ぬぐい去ることのできない、強烈な印象を与えられた。