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あだこ

あだこ

山本 周五郎

「小説倶楽部」1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,762 字 · 46 页

青空文庫

彼女は囁くような声で答えた、「わだば、あたしは、わたくしが、このお屋敷のあだこになってからです」

「名まえも本当はあだこじゃないだろう」

「名はいそです」と彼女は云った、「あだこというのは国の言葉で、子守りとか下女のことをいうんです」

半三郎はちょっと黙ってから云った、「――ではあだこと呼んでは悪かったんだな」

「よごす、いいえ、悪くなんかありません」彼女はかぶりを振った、「これからもあだこって呼んで下すって結構です」

「十兵衛のことを聞こう」

「十二月のはじめころでした、旦那さまが歩きにいらしったあとで、曽我さまが訪ねてみえ、縁先でいろいろお話をうかがいました、どうしても座敷へあがって下さらないので、縁先でお話をうかがったのです」

「そのとき金森のことを聞いたんだな」

「はい」とあだこは低く頷いた、「伊賀屋から聞いたと云いましたが、本当はそのとき曽我さまからうかがったのです、わたくしも自分のことをすっかり申上げ、曽我さまはお金を置いてゆこうとなさいました」

「おまえは受取らなかったそうだ」

「お金は役に立たないと思ったからです」

半三郎は訝しそうにあだこを見た、「どうして金が役に立たない」