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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
「有難う、では返事を聞かせてもらえますね」
「わたくしも飾らずに申上げますわ、せっかくですけれど、お受けできませんの」
「待って下さい、そう云わないで下さい」修理は自由なほうの手を振った、「いきなりそう云い切ってしまわないで下さい、私はながいあいだ貴女を想っていた、貴女はむろん気がつかなかったかもしれない、また本来なら、火傷をしてこんな醜い躯になったのだから、結婚のことなど云いだしてはいけなかったかもしれないが、私はどうしても黙っていることができなくなった、黙っていることが苦しくって耐えられなくなったんです」
「火傷なんかなんでもありませんわ」若尾は反抗するように云った。修理のそういう云いかたは女の情に脆いところを衝いている。それは卑怯だと若尾は思った、「――たとえ不具になったとしても、良人として恥ずかしくない方なら、女はよろこんで一生を捧げますわ、それで、はっきり申上げますけれど、わたくしには、もう約束をした方がございますの」
「貴女に、――」修理はどきっとしたような声で反問した、「約束した者があるんですって、貴女に」
「はい、それもずっとまえからですわ」