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みずぐるま

みずぐるま

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页

青空文庫

若尾はすぐに追いついた。すっかり曇った暖たかい晩で、林の中はつよく土の香が匂った。

「雨になりそうですね」修理はそう云って振返った、「降られると焼け出された連中は困りますね」そして急に荒い息をした、「簡単に云います、もう貴女もお察しのことだろうから単刀直入に云います、若尾さん、どうか私と結婚して下さい」

若尾は半歩うしろへさがった。

――やっぱりそんなことか。

彼女はそう思った。これまで逢うたびに、彼がなにも云わないのに拘らず、いつかそれが話に出そうだという予感があった。それも自分から云いだすのではなく、若尾のほうから云いだすのを待っているような、――なんと己惚れの強い人だろう。若尾はそう思って、おそれるよりはむしろ幾らか軽侮していた。

――この人は辛抱をきらしたのだ。

若尾の気持がいつまでも動かないので、彼はついにがまんできなくなったのだろう、しかもいま、彼は火傷をして晒木綿を巻いている。そういう申込みをするには、究竟の条件だと思っているようでもあった。

「突然こんなことを云いだして、貴女はぶしつけだと怒るかもしれませんが」

「いいえ」と若尾は首を振った、「そういうふうに、はっきり仰しゃって下さるほうが気持がようございますわ」