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みずぐるま
みずぐるま
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,077 字 · 54 页
「しっかりするのよ庄ちゃん」と若尾は云った、「あんた赤ちゃんを産むんでしょ、そんなあまったれ声を出してるような場合じゃないじゃないの、うんと力みなさい、うんと」
小屋のほうからひときわ高く、調子の早い囃しの音が聞え、観客の喝采する声がどよみあがった。
「常盤さんの曲芸だわね」
「そうよ」と若尾が云った、「こんど、ねえさんの出番でしょ、あたしが庄ちゃんをみているわ」
「頼むわ、終ったらすぐ来るから」
小菊太夫は立ちあがって若尾と代った。若尾は跼んで、左手を犬の首の下へ入れ、右手で静かに腹を撫でた。小菊太夫は、暫くその手もとを見ていたが、やがて出てゆきながら云った。
「あまり強くしないでね、若ぼう、――袴の裾がひきずってるよ」
若尾は、さっと袴の裾をたくしあげ、ひどくいきごんだ顔つきで犬の介抱を続けた。
「お産のときは青竹をつかみ割るくらい力むんだってよ、庄ちゃん」若尾は休みなしに話しかけた、「まだまだそんなことじゃだめ、いざっていうときは障子の桟が見えなくなるんですってさ、此処には障子はないけれど、蓆の目だって同じことよ、蓆の目をしっかり見ているといいわ、さ、うんと力んで」