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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

世間の例によらない商売の仕様をするので、お得意先に御不便なこともあろう。店員諸子にしても年少の人たちの中には、店の仕来りに従うて仕事をしながらも、何故そうするのか解らないでいるものがないとも言えない。私は自分が独自の道を歩いて来たのだから、誰にも真似をせよとは言わない。各人各様の道があり、私の店にいる諸君が、他日中村屋を出て、自ら新機軸を立て、大いに個性を発揮して新商道を起してくれることをこそ望むのであるが、それにつけてはまず自分の経験したところを話し、中村屋の商売の仕振りをよく理解してもらうとともに、将来の参考ともならばと思うのである。

私が三十二歳にもなって商売に志したのは、自分が生れつき勤め嫌いで、あくまで独立独歩、自由の境涯を求めたことに原因するのはいうまでもないが、それとともにもう一つ直接の動機となったものがある。それは信州の田舎に嫁して来た私の妻が、風俗習慣の違いと安易な田園生活に希望を失い、精神的苦悩から心身疲労して病気になり、行末危ぶまれる状態となったので、病気療養とともに何らかここに新たな生活を起す必要があったのである。

私は信州、妻は仙台、この二人の結婚の動機も、いま考えると不思議なところにあった。