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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

でもそれは新宿の外形であって、もうその土地には興隆の気運が眼に見えぬうちに萌していた。

さて支店は売上げが日に日に向上し、将来有望と見極めがついて来るとともに、今度は店の狭さが問題になって来た。何しろ奥行は二間半にすぎず、裏に余裕がないので製造場を設けることが出来ない。どうかも少し広い所へ移りたいものと考えていると、私が前から関係していた蚕業会社の桑苗部主任の桑原宏という老人がひょっこり見えて、ちょうど近所に売家があるが買わないかという話で、渡りに舟と私は早速その所有主真上正房氏に会い、交渉すること僅か十五分間で、建物四棟と借地二百六十坪の権利を三千八百円で買約した。それがすなわち現在中村屋の地で、今日から見ればこれを手に入れたことは全く得難き幸いであった。明治四十二年春のことであった。

さていささか余談にわたるが、私が新宿に来たこの前後数年間が、あの辺の地価権利などの変動の最も激しかった時で、新宿変遷史の一端ともなるであろうから、少しその当時の状況を述べておこう。

私に今の場所を売ってくれた真上氏は、それより三年前にこれを他から五百五十円で買い取ったものであった。