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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

はパンの廃物利用として造り出されたのであるから、その値段は一般民衆に得意を見出す程度のものにしたいと考えた。

そこで「ラスク」の原価調査をしてみると、一斤の原料費が三十五銭、製造費十五銭、卸売費五銭で、合計五十五銭、そこへ小売店の販売差益十五銭を加えて七十銭となっていることが判った。私はこの七十銭の市価に対して、原料費の三十五銭と雑費の五銭を加えて、四十銭で売り出すことに決めた。職人等はそんな安値で売る品物ではないと言って強く反対したが、私は、このラスクは元来がパンの過剰処分であるから、普通の商品並みにすることはよくない。原料代を回収することが出来れば、工場費も燃料も職人の給料も、全然見る必要がないという見解であった。ただこの安値で売ることはラスクの製造販売業者に対して気の毒であったが、私の店では天候急変の日の過剰処分以外には製造しないのであったから、他店に甚だしい迷惑はかけなかったことと思う。

さて出来上がった数百斤のラスクを店頭に出した成績はというと、非常な歓迎を受け、僅々二、三時間で全部売り切れとなった。爾来十年、大雨大雪の後には、ラスクが出来ているかと言ってわざわざ来店されるお客があるほどで、私の方でも心楽しくこれを店頭に出すことが出来るのである。