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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

そこで思いついたのが西洋のコーヒー店のようなものを開くことであった。上京後仮りに落着いたのが本郷であったから、ちょうど大学付近で、この店はいっそう面白そうに考えられた。そうだ、それがよかろうと夫婦相談一決して、いざ準備にかかろうとすると、もう一足お先に、本郷五丁目青木堂前に、淀見軒というミルク・ホールが出来てしまった。残念ながら先を越されて、私はもう手の出しようがなかったのである。さすがは東京だと、私はその機敏さに舌を巻いた。

次に眼をつけたのがパンであった。パンは初め在留の外人だけが用いていたのがその頃ようやく広まって来て、次第にインテリ層の生活に入り込みつつあった。けれどもこのパンが一時のいわゆるハイカラ好みに終るものか、それとも将来一般の家庭に歓迎され、食事に適するようになるものか、商売として選ぶにはここの見通しが大切であった。これは自分らで試してみるが第一と、早速その日から三食のうちの二度までをパン食にして続けてみた。副食物には砂糖、胡麻汁、ジャム等を用い、見事それで凌いで行けたし、煮炊きの手数は要らぬし、突然の来客の時などことに便利に感じられた。