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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

そこで、先に新兵衛餅を教えてもらった畑中氏をまたまた煩わすと、氏はカリーに最も適当する白目という米のあることを教えてくれた。

『維新前、江戸は美食を競うところであって、ことに各藩の勘定方など、価の高下を問わず美味三昧を誇りとしたものであるが、この人たちは好んでこの白目米を用い、また一流の鳥料理、鰻屋にはぜひともなくてならぬ米であったから、他の一等米に比しておよそ三割方の高価であったが、毎年三千俵の売行きがあったものだ。維新とともにそういう微妙な舌の持主は落魄し、にわかに粗野な地方人の天下となったのであるから、爾来白目米を味わい分ける者もなく、今日では僅かに当時の百分の一くらいが用いられるだけで、それすら年々減少する傾あり、この珍品白目米も遠からず種切れとなる恐れがある』と。

私は畑中氏からこれを聴いて、我が中村屋のカリー・ライスのためにぜひともこれを復興させねばならぬと感じ、早速産地埼玉県庁に照会して、時の産業課長近藤氏の賛助を得、農会長の肝いりで十二人の老農を選択してもらい、一等米より二割高で引き取ることを約束して、白目米三百俵の栽培を頼んだ。