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いちしょうにんとして

一商人として

相馬 愛蔵

――所信と体験――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,895 字 · 222 页

青空文庫

これが現在中村屋のカリー・ライスに用いている米である。明治初年、文人画家として令名のあった奥村晴湖女史は、古河藩の家老の娘として生れ、一生を美食で通したというが、女史は白目以外の米は口にしなかったそうで、実際白目米には他のいかなる米も及ばぬ味がある。私はこういう良い米を復興し保存し得たことをよろこんでいる。

次はカリー・ライスの鶏肉、いかにして良き鶏肉を得るかということであった。私は欧州視察中パリの食料品市場を見て、鶏肉に大変な価格の開きのあることを発見した。下等品と最上品では一と四の割合であった。私は日本ではせいぜい一と二ぐらいの違いであったと思っていたから、フランス人がそこまで肉の優劣を味わい分けるのに感服し、帰朝の上は自分もフランスに劣らぬ優良鶏肉を作り出し、中村屋のカリー・ライスを一段と向上させなければならぬと考えた。しかしそういう知識の全くない私のことである。どうすれば最上の肉が得られるか、見当もつかない。よく肥えた最上の肉を納入せよと鳥屋に命じるだけであって、それ以上立ち入ることが出来なかった。するとある日一人のお客様が私に対して、

『お店のカリー・ライスはじつに美味しいが、惜しいことには肉がなってませんね』