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ごじゅうのとう
五重塔
幸田 露伴
「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 57,316 字 · 111 页
請求をさえすらりと聴いてくれし上、胸にわだかまりなくさっぱりと平日のごとく仕做されては、清吉かえって心羞かしく、どうやら魂魄の底の方がむず痒いように覚えられ、茶碗取る手もおずおずとして進みかぬるばかり、済みませぬという辞誼を二度ほど繰り返せし後、ようやく乾ききったる舌を湿す間もあらせず、今ごろの帰りとはあまり可愛がられ過ぎたの、ホホ、遊ぶはよけれど職業の間を欠いて母親に心配さするようでは、男振りが悪いではないか清吉、汝はこのごろ仲町の甲州屋様の御本宅の仕事が済むとすぐに根岸の御別荘のお茶席の方へ廻らせられて居るではないか、良人のも遊ぶは随分好きで汝たちの先に立って騒ぐは毎々なれど、職業を粗略にするは大の嫌い、今もし汝の顔でも見たらばまた例の青筋を立つるに定まって居るを知らぬでもあるまいに、さあ少し遅くはなったれど母親の持病が起ったとか何とか方便は幾らでもつくべし、早う根岸へ行くがよい、五三様もわかった人なれば一日をふてて怠惰ぬに免じて、見透かしても旦那の前は庇護うてくるるであろう、おお朝飯がまだらしい、三や何でもよいほどに御膳を其方へこしらえよ、湯豆腐に蛤鍋とは行かぬが新漬に煮豆でも構わぬわのう、二三杯かっこんですぐと仕事に走りゃれ走りゃれ、ホホ睡くても昨夜をおもえば堪忍のなろうに精を惜しむ