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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
彼は一大事を打ちあけるかのごとく、突然圧し殺したようなささやき声になった。
「ところが、そういう苦労をしている間に、一つの奇蹟が起ったのだ。いいかね。凡庸な科学者の頭はいかに努力しても算術級数的にしか進まないものだ。航空機にのせる発動機の力を一千馬力から千五百馬力、二千馬力とじりじり増して行くということぐらいしか考えつけないのだ。
しかし、天才的な科学者の頭には、奇蹟がおこる。彼の能力は幾何級数的に進む。イヤ、それどころではない、断崖的に進むことがあるのだ。全く常識では想像もおよばないような奇蹟的着想を掴むことがあるのだ。誰でも知っている歴史上の例を上げれば、コペルニクスがそうだ。ダーウィンがそうだ。アインシュタインがそうだ。
生物の進化は、一から二と算術級数的にじりじり進むものだが、時としては断崖的進化の起ることがある。進化論では、これを突然変異といっているが、それがつまり奇蹟なのだ。その奇蹟が、脳髄の奇蹟が、新一、このわしに起ったのだよ。
いいかね。わしは音波の速度と競走することをやめて、光波と競走しだしたのだ。むろん、音などとは比較にならぬ速度を持っている光に追いつくことは、まだ遠い夢にすぎないが、兎も角そこに一つの飛躍が起ったのだ。