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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

五十嵐老博士逝去の日から、慌しい五日間が過ぎ去った。六日目の朝、やっと寸暇を見出した望月少佐は、久し振りで朝食後の山の散歩に出かけた。少佐はその日一応東京に引上げることになっていたので、別荘附近の山の風景に名残りを惜しむ散策であった。

背広服に鳥打帽、ステッキを振りながら先ず見晴台へ登った。ここはかつて五十嵐新一と南京子とが、別荘の煙突から這い出す曲者を発見した場所である。望月少佐もそのことは新一から聞いてよく知っていた。

少佐は見晴台の大石に腰をおろして、遙か目の下の温泉村の甍、渓流、それよりはズッと手前の山の中腹の別荘の建物などを眺めた。曲者の這い出したという四角な煖炉の煙突ははっきり見えているが、今日は何者もそこから這い出すけはいはなかった。

しかし、何かしら予感があった。どことも知れずこの山そのものが、少佐の心を異様に引きつけているように感じられた。少佐は見晴台から更らに山上への細道を辿って見ようと考えた。殆んど道とはいえないような道を小半丁も登ると、林が開けて五六坪の平らな草原に出た。ふと気がつくと足下の草の中に黒いものが落ちていた。