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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

パッと飛び散る血しぶき。

「アッ」という京子の叫び声。

新一は血まみれの左手を右手で握りしめて、その指の間からポタリポタリと赤い液体を垂らしながら、青ざめた顔、色のない唇で、気狂いのように笑っていた。

「マア、どうなすったの。大変ですわ。早くお医者さまに……」

縋りつく京子を軽く突きのけて、新一はまだ笑いつづけていた。そして、途切れ途切れにこんなことを口走るのであった。

「京子さん、今僕がどんなことを考えているか。この頭の中にどんな複雑な思想があるか、あなたが分ってくれたらなあ。イヤ、とてもとても、あなたには分らない。わかるはずがない」

「でも、どうしてあんなひどいことをなさったの、御自分の手を」

京子はいたいたしそうに新一の手首を、滴り落ちる血潮を、見つめている。

「こうしないではいられなかったのです。心の痛みを忘れるために、肉体を苦しめるのです。そうすれば心がいくらか楽になるからです」

新一は京子を鋭く見つめながら、悲痛な声でいうのであった。

「お察ししますわ。お母さまがこんな目にお会いになったのですものね。お父さまは敵国の間諜のためにああいう御最期をおとげになり、今またお母さまが、敵の爆弾によって命をお縮めになったのですものね。