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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
何しろ僕に取っては父と母との仇討ちですからね。一月余りというもの殆んど夜も寝ないで走り廻り、やっとここまで漕ぎつけました。そして、奴らの全員がここに集まっている好機会を捉えることが出来たのは全く幸運でした。父母の霊が導いてくれたのかも知れません。これで僕もいささかお国の為に尽すことができたというものです。少くとも僕の調べたところでは、今夜ここに集まっていたのが、内地に潜入している敵国間諜団員の全部です。もう心配はありません。工場爆破計画も、思想攪乱工作も、これでおしまいです」
新一は非常に昂奮しているように見えた。地下室の中をあちこちと歩き廻りながら、上ずった声で喋りつづけた。
「だが、新一君、僕等の仕事はまだ全く完了したとは云えないようだね」
望月少佐は新一の言葉の途切れるのを待って静かにいった。
「エ、それはどういう意味でしょうか」
新一は歩き廻るのをやめて、少佐と相対して椅子に腰をおろした。
「あの椅子だよ」
少佐はテーブルの一端にキチンと行儀よく据えてある一つの椅子を指さして、意味ありげに云った。他の椅子は先程の騒ぎで皆位置が乱れているのに、その椅子だけは真直ぐに置かれたまま誰も手を触れなかったように見えた。