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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

新太郎は外人商館の手代見習に入っていたが、その頃同じ横浜に人力車の帳場を経営していた堂本という者の娘お花を愛してこれを娶ろうとしたところ、母の実家が反対して、どうしても許さぬので、新太郎はお花を連れて駈落ちしたのです。そして諸方を巡り歩いた末、静岡市に落ちついて、新太郎は丸三製氷会社の書記を勤めた。書記をやっている内に段々製氷技術を覚えて、後には技師として働くようになった。

新太郎夫婦はそこで一男一女を挙げたのですが、男子は死亡し、女子の方が残った。新太郎の二十六歳の時生れた娘です。これは二代目の混血児ですが、見た目は殆んど日本人と変りがなかった。美しい娘でした。

新太郎は二三の製氷会社を転々して、最後に東京下谷区の東洋製氷会社工場に勤め、根岸に住居した。明治四十二年、新太郎はそこで病死し、妻のお花と娘の幸子が取残されたのです。新太郎は本来ブウリー新太郎とでも名乗るべきですが、ブウリーは新太郎の少年の頃日本に帰化し、姓も大川と改めておったので、新太郎の娘の幸子は、即ち大川幸子なのです」

望月少佐はそこでちょっと言葉を切って、煙草に火をつけ、その青い煙の中からじっと新一青年の顔を眺めたが、新一は腕組みをして目を閉じて、眠っているのではないかと怪しまれるほど静かにしていた。