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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

「大川幸子は二十歳の頃野田某という医学生と恋愛に陥り、間もなく妊娠したが、野田は幸子と結婚できない事情があって、郷里に帰ってしまった。幸子は非常な不幸に沈んだが、思いもよらぬ救いの手がのべられた。凡ての事情を知った上で彼女を妻にしたいという人が出てきたのです。それ程まで幸子を愛し幸子の容色に溺れた人があったのです。それはその頃大学の助教授であった工学士五十嵐東三氏です」

少佐はここで又言葉を切って、二人の聴手の顔を眺めた。京子はハッとしたように目を見はって話手の顔を見つめていたが、新一青年は目を閉じたまま少しも動かなかった。

「五十嵐博士と結婚して間もなく、幸子は男児を生み落した。五十嵐はその子供を新一と名づけ、自分の子供として届出でたのです。それから二十余年の間、夫婦の間には一人の子供も生れず、新一は両親の寵愛を独占して成長した。新一君、それが君なのです。わたしは二月かかってやっとここまで調べ上げた。新一君、君はこのことをもう知っていたのでしょうね」

「ええ、知っていました」

新一は目を開いて、じっと少佐の顔を見ながら、落ちついて答えた。顔色は真青であったが態度も口調も極めて静かであった。