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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
別荘には塀があり門があるのですから、温泉客や村人がむやみに入って来る筈はありません。何か目的があって忍び込んだ奴の足跡です」
「マア……」京子は大きく目を見はったまま二の句がつげなかった。
「しかも、そいつは足音も立てないで、僕の身辺につき纒っているような気がします。時とすると、僕はそいつの息遣いさえ聴くのです。ハッとしてあたりを見廻しても、むろん誰もおりません。しかし、どこか物の蔭から僕をじっと見つめているのです。今でも、僕はそいつがごく近くにいるような気がします。……ごく近くに、……ごく近くに……」
新一は同じ言葉を夢見るように繰返したきり、黙り込んでしまった。彼の目はどこか遠くを見つめたまま、釘づけのように動かなくなった。そしてその目が段々大きく見開かれて行った。顔の筋肉が異常にひきしまって行った。
京子は何かしらゾッとして、恐る恐る新一の視線を辿って見た。新一は目の下の別荘の屋根を見つめているらしく思われた。京子もそこを見た。するとハッと息を呑むような異様な光景が眺められた。
別荘は古風な建て方の西洋館で、スレート葺きの屋根の上に、長方形の煖炉の煙出しが、ニューッと突出していた。