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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
その四角な煉瓦造りの煙突の中から、今、一人の黒い洋服を着た男が、這い出しているのである。
別荘ではむろん煖炉など焚いていないので、煙突掃除夫が来ている筈はない。そうかと云って、別荘の人々の中に、煙突の中をもぐるような酔狂な人物がいようとは考えられぬ。見晴台から別荘までは一町以上も隔っているので、その男の顔などは到底見分けられないが、全体の姿が別荘の人でないことは一目で分った。むろん爺やでもない。
アア、新一の直覚は正しかったのだ。何者かが煙突から屋内に忍び込み、何事かを行って、今立去ろうとしているのだ。
黒服の男は煙突を這い出すと、猿のように屋根の上を走って、忽ち向う側に姿を隠してしまった。煙突の中から半身を現わしてから、全く姿の見えなくなるまで、ほんの十数秒間の出来事であった。
「京子さん、あなたはあとからいらっしゃい。じゃ失敬します」新一は急がしく云い捨て、もう駈け出していた。たとえ今からでは間に合わぬまでも、敵の姿を見て、じっとしているわけには行かなかったのだ。
「待って。あたしも一緒に……」京子は脅えた声で叫んで、新一の後を追った。この淋しい山中に唯一人取残されることを恐れたのである。