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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

耳をすますと、やはりコトコトと異様な音が聞えて来る。

「誰だッ、そこにいるのは」

新一が大声に呶鳴って見たが、聞えたのか聞えぬのか、中からは何の答えもなく、同じ物音がつづいている。しかも、その音がだんだん強くなって来るのだ。

新一は持って来た金挺を観音開きの合せ目に入れて、扉をこじあけようとしたが、厚い唐木の頑丈な箪笥だから、なかなか思うようには行かぬ。

「お貸しなさい。自分がやって見ましょう」

もどかしく思ったのか、憲兵は新一から金挺を受取って、扉の前に立った。

「何が飛び出して来るか分りません。用心して下さい」

憲兵は二人に注意を与えておいて、巧みに金挺を使い、苦もなく扉の錠前の部分をこじあけた。扉は自由になった。だが、中からは飛び出して来る様子もない。

憲兵は扉をソッと開いて行った。開くにつれて電燈の光が流れ込む。その光に照らし出されたものは、手足を縛られ、猿轡をはめられた小柄な女の姿であった。

「アッ、お母さん」

新一はそれと知ると飛びついて行って、観音開きをあけ放ち、その女性を箪笥の外に助け出した。五十嵐老博士夫人は、自室の洋服箪笥にとじこめられていたのである。