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いだいなるゆめ

偉大なる夢

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页

青空文庫

指紋の主

三好は最も信頼できる憲兵です」

新一は少佐の手から一葉の写真を受取って、そこに黒く渦巻いている二つの指紋に見入った。肉眼では十分見分けられぬけれど、二つとも横に流れた蹄状紋であった。

「こいつですね。父をあんな目に合わせた奴は。そして、この大事業を挫折させた奴は。僕は復讐しないではおきません。必ず復讐します。望月さん、今日からあなたの弟子にして下さい。僕はあなたの助手になって、こいつを捉えるのです。このスパイの奴、捉えないでおくものですか」新一は歯ぎしりをして、叫ぶように云うのであった。

指紋の主

三好憲兵曹長は望月少佐の命を受けて、その日の午後上田市から東京への汽車に乗った。いうまでもなく五十嵐博士殺害未遂犯人の怪指紋照合のためである。

三好曹長はまだ三十歳を少し過ぎたばかりの若々しい軍人であったが、望月少佐が大陸在任時代からの部下で、少佐の片腕として、大陸の複雑な国際犯人捜査に当り、その道にかけては豊富な経験を持つ老練家であった。

併し流石の三好曹長も、今度の殺人未遂事件には、少なからず面喰っていた。この事件には何かしら途方もない感じがあった。あれほど厳重に見張っていたにも拘らず、犯人は隠れ簑でも身につけているかのように、全く人目に触れないで、博士の寝室に忍び込み、設計室の金庫の書類を盗み去った。