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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「君達は分らないな。僕は吉田君と二人で毎朝塔へ登って祈っているんだ。ロシヤだって神を信ずる国だから、屹度悔い改める」

と安部君は真剣だった。信仰で戦争を食い止めようというのだから、意気熾んなものだ。当時斯ういう信者が大人にもあった。未信者の側では高木君が極端な開戦論者を代表していた。

「三国干渉遼東還附以来、恨み骨髄に徹しているんだ。理窟も糸瓜もあるものか?」

と毎日悲憤慷慨して、午後の授業を休んだ。

「やれば日本は義戦さ」

と蝙蝠信者の立花君は例によって何方つかずだったが、或日、開戦論者の機嫌を取る為めに、

「先方が仕掛けて来たのを受けて立つのは正当防衛だから正義の戦争さ。負けても名分は立つ」

と説明を加えた。

「負けてもとは何だ?」

と野崎君が鎌首を擡げた。

「しかし勝てる確信はないよ」

「露探!」

「何?」

と温厚な立花君も流石に憤って立ち上った。

「ロシヤの贔負をする奴は露探だ」

「贔負はしない」

「勝てる確信がないなんて、初めから景気の悪いことを言うな」

「戦争は景気でやるものじゃない。先方は世界の大国だ」

「此方には大和魂がある。負けるものか」

「大和魂なんてものは心理学上存在しない」