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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「同じ平社員でもおれのところは外国会社だ。制度が違う。それにおれは出発が悪かった」

「学園を出たものは皆然うさ」

「職業を度々更えたのも祟っている。兎に角、おれは例外だ。書くと撲るぞ」

と野崎君は例によって荒い。素質はあるけれど、特別に運が悪かったと思い込んでいる。自分を凡人と覚るのはナカ/\困難の業らしい。

「凡人伝なるかな! 凡人伝なるかな!」

その次に私は日曜を利用して牧師の安部君を訪れた。この男に渡りをつけるには日曜が一番好い。朝晩説教をするので、草臥れるから、苦情があっても力強く反対しない。果して教会で説教中だった。その昔夜陰に乗じてジョンソン博士の裏庭へ苺を盗みに行った棒組だ。奴、何んなことを吐すだろうかと、私は好奇心があった。滔々と弁じている。諄々と説いている。口は学生時代から達者で、

「彼のう、マルテン・ルーテルがあ、ウィッテンベルヒに於きましてえ……」

と煩いくらい稽古を積んだものだ。こんなことを思い起しながら、安部君の顔から壁間へ目を移すと、説教題が、

「平凡人の平凡生活」

と掲げてあった。

「野郎、やっているわい、おれの来るのを知っていたのか知ら?」