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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「凡人伝なるかな!」

と私は蹶起した。

この計画を赤羽君に話したら、

「おれのことも書くのかい?」

と稍不安そうに訊いた。

「うむ。君が主要人物になるかも知れない」

「しかし僕の伝は目下郷里出身の文士に書かせている」

「これは驚いた」

「それと矛盾しちゃ困る」

「編纂料を出しているのかい?」

「うむ。大分取られる」

「僕は唯で書く代り有りのまゝだ。郷里のが肖像画なら、僕のは写真だろう」

と私は皮肉ってやった。少し成功すると偉人の素質でもあるように思うところが浅ましい。愚なるが如しと衆目が認めている赤羽君にしてこの通りだ。

「凡人伝なるかな! 凡人伝なるかな!」

と私は信念を固めて、次に保険会社の野崎君を捉えた時、この種の著述の必要を説明してやった。

「柄にないな」

と野崎君は一応貶しながらも賛成して、

「苦し紛れだろうから何をしようと君の勝手だが、おれのこと丈けは書くなよ」

と条件をつけた。

「迷惑かい?」

「当り前さ」

「何故?」

「おれは例外だ。材料にならない」

「ソロ/\白髪が生えるのに保険会社の平社員じゃ無論凡人組だろう」

と私は鬢のあたりを見てやった。此奴はいつまでも若い積りだから、これを一番厭がる。