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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

私達は祝勝々々で、屡学校を休んだ。愛国心を遊ぶ口実に使った傾向がある。丁度その頃のことだった。私の信仰に一転機が来た。或る日、矢張り祝勝で午後から郊外へ散歩に出た時、その辺の人達が汽車道へ駈けつけるところを遥かに認めた。汽車が止って、汽笛を鳴らしている。

「人を轢いたんだ」

と私達も田圃道をその方へ急いだ。一番先に走りついた私は忽ち、

「やッ!」

と後じさりをした。年頃の女が轢かれていた。胴が二つに切れて、目も当てられない有様だった。

「可哀そうだなあ」

と鈍感の赤羽君さえ真青になって、頻りに唾を吐いた。

「あゝ、厭だ」

と野崎君も身震いをした。

「もう行こう」

と私は皆を促して歩き出した。轢死者の浅ましい姿が目について、四人が四人、少時無言のまゝ田圃道を辿った。

「河原君」

と高木君が沈黙を破った。

「何だい?」

「神さまはない」

「…………」

「霊魂もない」

「…………」

「何うだい?」

「さあ」

と私は考え込んだ。

「人間は生きているから心がある。死んでしまえば、あの通りだ」

「…………」

「鳥や獣と些っとも異らん」

「霊魂はないだろうかね?」

「ない。信者は心を霊魂と取り違えているんだ」