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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
「何故?」
「あなたが年寄に見える分、私が若く見える勘定になりますわ」
「巧いことを考えていやがる」
と私は感心した。
昨今はもう仕方がない。万事諦めている。しかし右を見ても左を見ても、自分が一番若かった当時は、人生がもう少し何うにかなりそうに思えた。若い独身者の目には周囲の中老連中が至って平凡に映る。
「好い年をして何て態だろう? もう少し何うにかなりそうなものだに」
と自分には前途がある積りだ。
「何だ? 見っともない女房を持って、食うに困るほど子供を生んで」
と、私は実際訪れるのも不見識のような気がした。赤ん坊を抱いて、
「やあ、河原君。珍らしいね。上り給え。これはいけない。シッコだ/\」
なぞとやられると、
「いや、又今度にする。さよなら」
と言って、逃げて来る。家内が何うしたの子供が斯うしたのと、事故ばかりあって、側で聞いているのも煩い。向上心なぞは些ともない。閑があると、碁を打つ。将棋を差す。謡曲を唸る。天下も国家も忘れ果てゝ、月給の上るのを待っている。若し主義があれば、齧りつき主義だ。
「斯うやって齷齪している中に白髪が生えて、あたら一生を終るのだろう。