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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
可哀そうな連中だ」
と私は気の毒に思っていた。爾来二十年、既にもう終ったのが可なりある。しかし考えて見ると、私も間もなく彼等の道を辿り始めたのである。
若いのを誇りとしていた私は同僚中一番の老人と特別入魂になる機縁を持っていた。最初からのことを思い合せると、宿命というものを否定出来ない。何うしても然うならざるを得ないように出来ていた。人間のすることなすことは或は初めから定っていて、それが巻物のように一日々々と開展して行くのかも知れない。私は河原さんに誰よりも先に会ったのである。夕刻、駅に着いて、俥屋に、
「錚々館まで行ってくれ」
と命じた時、チラリと私の顔を見た老人があった。その人も矢張り俥に乗るところだった。私はズック鞄の外に大きな行李を二つ持っていたので、一台には乗り余った。
「もう一台」
と註文したが、
「生憎と出払っていまして」
ということだった。この時、私は偶然老人と又顔を見合せた。
「俥屋さん、俺はよす」
と言って、老人は既に乗っていた俥から下りて、
「これでいらっしゃい」
と私に向って会釈した。
「いや、少時待ちます」
「いや、御遠慮に及びません。