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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

僕は初めから癪に障っているんだ」

と私はもう遠慮しなかった。

「これは仕方がないよ」

「何うして?」

「精神修養だもの」

「へえゝ」

「即答すると後悔を残す虞がある。僕は元来軽率だからね。それで大に工夫しているんだよ。答える前に然うですねと濁して置いて、凝っと考える」

「考える必要のない時でもやるよ」

「あれは一二三四と二十まで数えているんだ」

「道理で手間が取れると思った」

「何うせ人の時間だもの。此方で待っているんじゃない」

と五味君は鹿爪らしく見せかけていて、ナカ/\横着なところがあった。

これぐらい考えている男だから、游ぎ方が巧かった。錚々館へも転任で来たのだったが、三年で又飛んだ。その折、

「おい、おれを引っ張ってくれよ」

と私が頼んだら、

「然うだね」

と言って考えた丈けだったが、忘れなかったと見えて、二三年後その次の任地へ私を引き抜いてくれた。そこで数年間又一緒だったから、特別関係が深い。今では女学校長をしている。柴田君よりもずっと故参だ。先頃校長会議に上京した時、訪ねて来て一晩話した。

「錚々館へ赴任した時は二十四だったが、長男がもう二十一だよ。此年から大学へ入った」