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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
「何分暗中摸索で手許が狂っていましたから幸大した怪我もありませんでした」
とこれも切れていない。勝っていた味方に軽傷を与えて、敵の危急を完全に救ってしまった。
「しかし面白いです。それ丈けでございましたか?」
「いや、それ丈けなら私も一生こんな苦しい思いは致しません」
「それでは未だおありでしたか?」
「一人本当に切り捨てました」
「はゝあ」
と私は驚いた。
「実に無情なことを致しました」
「しかし戦争ですから仕方ありません」
「然う思って慰めているんですが、矢張りいつまでも責められます。若松の町外れで橋を守っていた時でした。秋九月、あゝ、丁度今頃、而もこんな月夜の晩でしたよ」
と老河原さんは縁側に近く占めた席から軒端を仰いだ。
「…………」
「城下と在方を断つのが私達差当りの任務でした。私は橋の中央に立って、月を眺めていました。折しもあれ『河原、切れ!』と城下の方の袂から同輩が叫びました。同時に女が一人、息をはずまして走って来ました。私は刀を抜いて遮りました。妙齢の娘さんです。月の光を浴びて、凄いほど美しい」
「はゝあ」
「娘は屈んだまゝ、手を合せて拝んでいます。『間諜だ。