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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「君、今夜町へ出て来られないか?」

「さあ」

「北村君と長谷川君で会をやる。君、長谷川君から聞いたろう?」

「東京行きのことですか?」

「うむ、その送別会だ。君にも来て貰いたいって長谷川君が言っている。成るべく出てくれ給え」

「出ます」

と私は承知した。

会場は料理屋だった。芸者も来ていた。校則によれば正に退校ものだ。しかし三人は平気で酒を飲んだ。教室ではナショナル読本に首を捻っていても、斯ういうところへ来ると立派な大人だった。私は小さくなって三人の談論に耳傾けていたが、初めて人生問題に行き当ったような気持がした。

「事こゝに至ったのは河原が悪いんだ」

と北村さんが管を巻き始めたには益※(二の字点、1-2-22)驚いた。

「何故ですか?」

「まあ一杯飲め」

「僕は厭です」

「酒を飲めない奴が何になる?」

「よせよ、北村」

と長谷川さんが制した。

「おれはクリスチャンというものが気に入らない」

「よせよ、馬鹿」

「事こゝに至ったのは河原の罪だ」

「何故ですか?」

と私も癪に障った。

「君が耶蘇の説法をしたからさ。女郎屋だって商売だ」

「僕はそんなこと知らなかったんです」

「商売でも正業じゃないぞ。