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ぼんじんでん
凡人伝
佐々木 邦
「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页
「僕は信者じゃないからね。福沢先生なら知っているけれど」
と野崎君は忌々しそうだった。
間もなく私は、
「赤羽君、君は信者ですか?」
と訊いて見た。
「いゝえ」
「お家が信者ですか?」
「いゝえ。僕は基督教は嫌いです」
「それじゃ何うしてこの学校へ入ったんですか?」
「実は去年高商を受けて弾ねられたんです。又やるかも知れません」
「それまでの腰掛ですか?」
「えゝ。しかし確信がありません」
と赤羽君はニコ/\した。
「これは話せる」
と野崎君が共鳴した。
「ハッハヽヽヽ」
「僕も去年高商をしくじったんです」
「何うも然うだろうと思いました」
「何故?」
「君の受験番号は二百五十九番でしたろう?」
「然うでしたよ」
「僕は二百六十番です。君は僕の直ぐ前の机でした」
「はゝあ」
「カンニングをやったでしょう?」
「冗談言っちゃいけない」
「僕は後ろから見ていました。英語の時間に辞書を引きました」
「おや/\」
「それだから印象が深いんです。先刻会った時、何うも見た顔だと思いました」
と赤羽君は退っ引きさせなかった。
「悪いことは出来ない」
「ハッハヽヽ」
「しかし入学試験のカンニングは利かない」
「実は僕もやったんです」