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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

「それ見給え」

「君のを見たんです」

「何の時?」

「数学の時です」

「僕のを見たんじゃ落第するよ」

「その所為かも知れません」

「罰だ。ハッハヽヽ」

と単純な野崎君は態度を一変して、旧知のように話し始めた。

「君も又受けるんですか?」

「さあ」

「僕は兎に角受けようと思っています」

「それじゃ僕もやって見ようかな?」

と入学早々、他の学校へ逃げ出す相談だ。

「二人とも腰掛じゃ張合がない」

と私は失望した。

「腰掛とも限りませんよ」

「僕も限らん」

「落第すれば、このまゝ居残るんです」

「僕も然うだ」

「高商はむずかしいです。僕は数学が出来ません。英語が駄目です。そこへ持って来て暗記物が形なしですから、迚も見込はないんです」

「僕だって同じことだ。一旦決心をしたんだから、矢っ張りこゝにいる方が宜いかも知れない」

「こゝだって専門学校です。卒業すれば何うにかなりますよ」

「英語の力丈けはつく」

「それですよ。僕もいようかな? 又数学をやり直すのが辛い」

「瘠せるくらい勉強するのかと思うと、厭になる」

「英語さえ出来るようになれば、高商も同じことですよ。折角入ったんだから、もう諦める方が宜いかも知れない」