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ぼんじんでん

凡人伝

佐々木 邦

「雄辯」大日本雄辯會講談社、1929(昭和4)年4月号~1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,944 字 · 202 页

青空文庫

僕は早く済んで君の方を見たら、君が未だやっていたから、又始めたんです」

と私は有りの儘を告白した。

「僕も然うですよ。負けまいと思って、済んだのを又無理にやったんです」

「それにしても僕は三度目を開いています」

「僕も一二三、矢っ張り丁度三度です」

と安部君も匿さなかった。潜水か何かの積りで、長く続くのを豪いと思っていたのだ。幼稚なものだった。信仰も進化する。安部君は現在立派な牧師さんになっているが、私はこの程度で発達が止まってしまったのである。

野崎赤羽の両君は特別として、最初に会っている所為か、私はこの安部君とは他の同級生よりも早く親んだ。先方も好意を持っていると見えて、食堂では私の隣りに坐る。

「これは何ですか?」

と私が訊く。

「葱のカツレツです」

と安部君が教える。チャペルでも、何方が努めるともなく、二人並んで席を占める。

「あの頭の禿げた西洋人は何という人ですか?」

「ニコルさんです。幾つに見えます」

「六十ぐらいでしょう」

「可哀そうに。四十そこ/\ですよ」

「若いんですね」

「あの頭に毛が生えないと、奥さんがアメリカから帰って来ないんです」

「はゝあ」

「先生、一生懸命になって、毎朝鵞鳥の生血を飲むそうです」