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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
すると、彼は無論部屋の中にいたのだ。併し、どこにそんな隠れ場所があるだろう。
仏像の中か。とても人間が隠れる程の広さはない。第一、鋳物や木彫りの仏像の中へ、どうして這入れるものか。
といって、壁にも床にも隠し戸のないことは、小川の死体紛失事件の際、警察の人々が充分調べたので、分っている。
「イヤ、何でもないのです。きっとあなたの目が、どうかしていたのですよ」
明智は、何気なくいって部屋を出た。
老人は、仕方なく、明智消失の不審はそのままにして置いて、小林少年からの電話のあった仔細を告げた。
「エ、文代さんが? 賊の為に?」
流石の明智も、この突然の兇報には、ニコニコ顔を引込めないではいられなかった。
大急ぎで階下の客間へ降りて行くと、探しあぐねて、期せずして、そこへ集まっていた人々は、明智の不意の出現に驚いて、四方から質問をあびせたが、彼はそれに答える余裕はない。三谷青年を捉えて、却ってこちらから電話の様子を尋ねるのだ。
そうしている所へ、小林少年がタクシーで駆けつけて来た。待ち兼ねていた人々は、手をとる様にして、彼を客間へつれこんだ。
そこで、お話は文代さん誘拐事件に移る訳だが、一方二階の書斎に起った怪奇については、今の所少しも、その謎が解かれていない。