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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
男は猫が鼠を楽しむ様に、ジロジロと美しい獲物を眺めながら、舌なめずりをしていった。
「すると。あなたは、若しや……」
「フフフフフフフ、気がついた様だね、だが、もう手おくれだよ。……如何にも御推察の通り、俺はお前さん達が探している男なんだ。お前さんの旦那の明智小五郎というおせっかいものが、血眼になって探し廻っている男なんだ」
「では、昼間、ドアの下から、あの恐ろしい手紙を入れて行ったのは……」
「俺だよ。……今、あの手紙に書いて置いた約束を、果しているのさ。俺は約束は必ず守る男だからね」
「で、どうしようというのです」
文代はきっとなって、男を睨みつけた。
「サア、どうしようかな」男はさもさも楽し相に、「俺は明智の奴をこらしてやればいいのだ。お前さんを人質にとって、あいつを苦しめてやればいいのだ。併しね、そのお前さんの美しい顔や身体を見ていると、また別の望みが湧き上って来るのだよ」
文代は、ギョッとした様に、身をかたくして、配電盤によりかかったまま、黙っていた。
男は黒い眼鏡越しに、彼女のよく似合った洋服姿を、嘗める様に見上げ見下しながら、これも物をいわなかった。