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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
そこへ、高い丸屋根の上から、響いて来る、罵り声。びっくりして見上げる空から、とっ組み合った人間の雨だ。
「ワーッ」
と上るときの声、気の弱い連中は、悲鳴をあげて逃げ出すので、人波が右に左にもみ返す。
屋根から転落した二人が、そのまま地上へ落ちたならば、無論命はなかったであろうが、あの建物は、屋根の下に、複雑な出っ張りが出来ている。彼等は、とっ組み合ったまま、その出っ張りの一つに落ちたのだ。
命は助かった。だが、急に起き上る元気はない。両人とも、そこにへたばったまま「馬鹿野郎、馬鹿野郎」と罵る声が降って来るばかりだ。
あの狭い棚のような場所で、争いを続けたなら、負けた方が、今度こそ、真逆様に、地面へ墜落して、命を失うは必定だ。
黒山の見物人には、人の姿は見えぬけれど、罵り合う声で、二人が危険な争いを続けていることが分るので「あぶない、あぶない」とわめき立てる声が、嵐の様にわき返る。
やがて、その事が館内に伝えられ、なだれを打って、飛び出して来た一群の人は、さい前館内で、賊を追っかけた警官、係員、仕事師などの連中だ。その中に、異様な軍服姿の文代さんや、小林少年もまじっていた。