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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

と鬨の声だ。

「何て馬鹿な奴でしょう。あんな所へ昇れば、見つかるにきまっているし、見つかれば、引おろされるにきまってるじゃありませんか。ごらんなさい、今に、何の造作もなく引くくられてしまいますから」

見物達は時ならぬ見世物に興じながら、口々に、賊の愚挙をあざ笑った。警官も、館の人々も、同じ様に考えていた。もう賊は逮捕したも同然だと思い込んでいた。

ところが、人々がそんなにたやすく考えたのは、大変な間違いであったことが間もなく分った。賊の方には最後の非常手段が残されているのだ。

繩はジリジリと縮まって行った。風船につかまった賊は、いやでも応でも、一尺ずつ、一尺ずつ、敵の手中に、たぐり寄せられて行った。

怪物はじっとしていた、あせったり、騒いだりする様子はなかった、地上から眺めると、夜を徹しての活動に、疲れ切って、眠りこけているのではないかとすら思われた。

だが、無論彼は眠っていたのではない、風船を引きおろす為に、汗になって働いている警官達と同じ様に、彼もセッセと働いているのだ。下の人々に気づかれぬ様に、右手を絶え間なく動かして、ある仕事を続けているのだ。