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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

それから、彼は物置部屋に引返して、梯子を上げ、石のふたと床板を元通りに直し、斎藤老人の死骸の仕末をした。どんな風に仕末したかは、やがて間もなく分る時が来る。

さて、翌日出棺の時間まで、棺の中の二人の苦しみはいうまでもないことだが、三谷青年の気苦労も並大抵ではなかった。

彼は早朝から、棺の側を離れず、中でかすかな音でもすれば、それをまぎらす為に、咳払いをしたり、不必要な物音を立てたり、滑稽な程気をくばった。棺のふたに釘を打ちつけ、中をのぞかれぬ用心をしたことはいうまでもない。

三谷はこの殺人事件の原因となった人物だけれど、家内の者が、それとハッキリ知っていた訳でもなく、親戚知己は集まって来たが、日頃疎遠の人が多く、倭文子誘拐事件以来、畑柳家の相談役の様な立場にある三谷が、さしずめ葬儀委員長であった。

定刻が来ると、三谷は人々をせき立てて、出棺を急いだ。

人夫が棺をかつぐ時には、若し悟られはせぬかと、非常に心配したが、そんなこともなく、生きた親子の潜んだ大型寝棺は、無事門前の葬儀自動車へ運び込まれ、畑柳家菩提寺での葬式も型の如く終り、更に葬儀車は、近親の者の自動車を従えて火葬場へと向った。