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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
「もう起きているんですか、大丈夫ですか」
恒川氏は、明智の元気に驚いて心配そうに尋ねた。
「イヤ、寝てなんかいられませんよ。事件はますます面白くなって来るじゃありませんか」
明智は警部に椅子を勧めながら例のニコニコ顔でいった。
「事件というと?」
「無論畑柳事件ですよ。唇のない悪魔の一件です」
「エエ、それじゃ、何か犯人の行方について手懸りでもあったのですか。僕等の方では、斎藤老人殺しの下手人の畑柳夫人捜索に全力を尽しているのです。歯型の一件といい、あの夫人を探し出してたたいたら、唇のない奴の方も種が割れ相な気がしますからね。しかし、女の身で、しかも子供づれで、よくもこんなにうまく逃げられたものです。いまだに何の手懸かりもありません」
恒川氏は正直な所を打ちあけた。
「イヤ、僕だって、確なことはまだ分っていないのです。併し手懸かりはあり余る程あります。それを一つ一つたぐって行くだけでも、大変な仕事です。寝てなんかいられませんよ」
それを聞くと警部は、ちょっといやな顔をした。警察の方ではそんなにあり余る程手懸りはないのだ。でもまさか、職掌柄、頭を下げて明智の発見した手懸かりを、教えてくれともいえぬ。