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きゅうけつき
吸血鬼
江戸川 乱歩
「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页
一寸法師
いたいた。確に人だ。全身真っ黒な、一寸法師みたいな畸形の怪物が、ソロリソロリ向うの壁に伝わって降りて来る。
一寸法師
頭から、手足の先まで、真っ黒な衣裳で覆い隠した、醜い怪物が、黒い蜘蛛のように、天井から、壁に伝わって降りて来るのだ。
目をこらして、彼の降りて来た個所を見ると、格天井の隅の一枚が、ポッカリ黒い穴になって、そこから一本の細引がたれている。一寸法師みたいな怪物は、その細引にぶら下って、仏像の肩を足場にして、巧に、音も立てず、床に降り立った。
目だけを残して、顔中を、黒布で包んでいるので、何者とも判断がつかぬ。無論、明智のいわゆる役者の一人に相違ないけれど、薄暗い部屋の中、怪奇な仏像共の前へ、真っ黒な一寸法師が、蜘蛛の様に天井から降りて来たのを見ると、ゾッとしないではいられなかった。
「誰です、あいつは」
恒川氏は、思わず隣席の明智にたずねる。
「シッ、静かに。あいつがなにをするか、よくごらん下さい」
明智に制せられて、恒川氏はかたずを呑んだ。三谷も、目を小怪物に釘づけにして、熱心に見物している。彼等は、珍らしい手品を見入る二人の大きな子供であった。