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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

アア、若しかしたら、あれがそうかも知れません」

書生が入って来て、明智に電話だと告げた。明智は室内の卓上電話に接続させて、受話器を取った。

「あたし、文代です。あの人、やっぱりあすこへ入って行きました。大急ぎで来て下さいまし」

「有難う。だが、大急ぎというのは?」

「でも、あの人、何だか、私達のつけて来たのを、感づいたらしい様子ですの」

「よろしい。それではすぐに、恒川さんと行きます。小林君をそこへ残して、あなたは、例のことを運んで下さい。じゃあ」

明智は卓上電話を離れると、恒川氏に向って、

「お聞きの通りです。やっぱり目黒の工場街へ帰った相です。すぐお伴しましょう」

「では、僕は応援の巡査を、そこへ集める手配をしておきましょう」

勇み立った警部は、明智からその工場の所在を聞いて、警視庁と、所管警察署とに電話をかけた。

約三十分の後、二人は自動車を、目的の工場の少し手前で降りると、徒歩で、その門前へ近づいて行った。

暗闇の中から、待ち兼ねていた小林少年が飛び出して来た。

「あいつは、確にこの工場の中にいるんだね」

明智が小声で尋ねる。

「大丈夫、外へ出た形跡はありません」