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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

「報知新聞夕刊」1930(昭和5)9月30日~1931(昭和6)3月12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 页

青空文庫

小林助手が、事務的に答えた。

間もなく、所管警察から五名の私服制服の警官が到着した。

「君達、手分けをして、この工場の表と裏を見張って下さい」

恒川氏は、三谷の容貌風采を告げて、五名の警官に依頼した。

そして、明智と恒川警部の二人だけが、真暗な門内へ入って行った。

暗夜のこと故、くわしくは分らぬけれど、工場というのは、いかにも荒れ果てた、みすぼらしいもので、板塀は、トタン板のつぎはぎだらけ、倒れかかった丸太の門柱には、それでも、小さな街燈がついていて、その淡い光りで、

「西南製氷会社」

という看板の文字が、やっと読める。

門を這入ると、暗の中に、大入道の様な黒い建物。無論バラック同様の、荒れすさんだ工場だ。イヤ工場の残骸だ。

「殺人犯人と製氷会社と、一体どんな因縁があるのだろう」

恒川氏は不審に堪えなかったけれど、無暗に口をきく訳には行かぬ。黙々として明智のあとからついて行った。

建物は全体が真暗であったけれど、横手に廻って見ると、一ヶ所だけガラスの破れた窓に、あかりがさしている。

二人は抜き足さし足、その窓の外へ忍び寄った。

のぞいて見ると、いた、いた。